今まさに危険を感じたら、まず自分の身を守る行動を。救急・火災は 119番、事件・事故は 110番
地震のあと自宅に戻れず、避難所も満員――そんなとき、多くの人が最後に選ぶのが車の中で夜を越すことです。ここでは「車中泊で命を落とさないための基本」と、意外と知られていないクルマの電気(エンジン・エアコン・給電)の話を、実際の震災で何が起きたかと合わせてまとめます。
「どこに停めるか」は車中避難できる場所マップをご覧ください。
プライバシーやペット、感染対策の面で車中泊を選ぶ人は増えていますが、避難所より安全というわけではありません。車中泊を選んだ場合も、最寄りの避難所に「車で近くにいます」と届け出てください。物資・給水・支援情報は避難所を単位に配られるため、届け出をしないと支援から漏れます。
車中泊で人が亡くなる3つの原因
- エコノミークラス症候群(肺塞栓症)同じ姿勢を続けると足の血管に血栓ができ、それが肺に飛んで突然死に至ります。熊本地震では車中泊者から実際に死者が出ました。2〜3時間おきに車外に出て歩く/足の指を動かす/こまめに水分をとる。トイレを我慢して水を控えるのが最も危険です
- 一酸化炭素(CO)中毒エンジンをかけたまま眠るのは危険です。排気口が雪・土砂・落ち葉・段ボールでふさがれると、排ガスが車内に逆流します。無色無臭で、眠ったまま気づけません。エンジンをかけたまま就寝しないのが原則
- 熱中症・低体温症夏の日中、締め切った車内は数十分で50℃を超えます。冬は逆に外気とほぼ同じまで冷えます。この「空調をどう確保するか」が車中泊の最大の課題で、次の章の本題です
夜をしのぐ電気を、どう確保するか
ガソリン車:アイドリングは思った以上に高くつく
エアコンのためにエンジンをかけ続けると、アイドリング10分で約130cc――1時間あたり約0.78Lの燃料を消費します。一晩8時間なら6L以上。しかも震災時は道路寸断でガソリンスタンドへの配送が滞り、給油待ちの長い列ができます。「燃料が減る」と「補給できない」が同時に来るのがガソリン車の弱点です。加えて前述のCO中毒リスクがあり、そもそも寝ている間はエンジンを止めるのが安全です。
EV・PHEV:エンジンを止めたまま空調が使える
電気自動車は駆動用バッテリーから直接エアコンに給電するため、排ガスもエンジン音も出ません。CO中毒の心配がなく、周囲への騒音もありません。JAFの検証では、外気温マイナス8.1℃でエアコンを使い続けても約9時間半でバッテリー残量10%という結果で、一晩の車中泊には十分もちます(暖房は電気自動車が最も電力を食う使い方なので、夏の冷房はこれより持ちます)。
さらにEV・PHEVの多くは外部給電(V2L/V2H)に対応しており、クルマを「持ち運べる大容量バッテリー」として使えます。日産によれば、62kWhのリーフはスマートフォンを6,000台以上充電でき、一般家庭の約4日分の電力に相当します。
給電機能を活かすには、車両が外部給電(V2L/V2H)に対応していること、住宅側にV2H機器があること、地域に充電インフラがあること――が揃って初めて機能します。ご自身の車が対応しているか、取扱説明書で今のうちに確認しておいてください。
過去の震災で、クルマと電気は実際どうなったか
「停電したらEVは動けないのでは」とよく言われます。しかし過去4回の大震災の記録を並べると、実態はむしろ逆でした。
| 震災 | 停電の規模 | 電気の復旧 | 燃料・充電の状況 |
|---|---|---|---|
| 東日本大震災 2011年3月 |
最大 約466万戸 | 3日で約8割(約373万戸) 8日で94% |
製油所停止と物流寸断でガソリンが枯渇。給油待ちの列が数週間続いた |
| 熊本地震 2016年4月 |
広域で停電 | 全国から電源車162台が集結 | 益城町役場前ではPHEVが停電下の照明用電源として給電 |
| 能登半島地震 2024年1月 |
広域・長期 | 道路寸断で電柱復旧が遅れ、一部で1か月近く停電が継続 | 給油制限下でEVが役場機能を維持。日産がEV8台を無償貸与 |
| 令和8年熊本地震 2026年7月28日 |
熊本県内 最大 約4万8,500戸 (電柱84本が折損) |
7月31日夕方に全面復旧(実質3〜4日) | 充電事業者5社が九州で108か所以上を無料開放 |
東日本大震災(2011年)── ガソリンのほうが先に尽きた
停電は3日で約8割が復旧した一方、ガソリンは供給が止まり、被災地の移動・支援活動・物資輸送が麻痺しました。このとき日産が自治体へリーフを計65台無償貸与し、公的機関や医療機関の足として稼働。ボランティアセンターでは、リーフのバッテリーから送電して被災状況を書き込む地図を照らすといった使われ方もしました。
ここで「ライフラインの中で最も早く戻るのは電気」という教訓が確立し、以降の自治体とメーカーの災害協定につながっています。
令和8年熊本地震(2026年7月28日)── 直近の実例
M7.1・最大震度7(宇城市・氷川町)を記録したこの地震では、熊本県内で最大約4万8,500戸が停電しましたが、九州電力送配電が1,400人体制で復旧にあたり、7月31日17時過ぎに全面解消。停電は実質3〜4日でした。
その間、EV充電事業者5社が自主的に充電スポットを無料開放しています(テラチャージ 県内71か所/DMM EV ON 県内14施設/テスラ 九州10か所/e-Mobility Power 県内8基・8月17日まで延長/FLASH 県内5か所)。合計108か所以上。「充電できない」ではなく「無料で充電できた」というのが直近の実態でした。
EVの弱点も、正直に書いておきます
- 停電しているエリアの充電器は動かない通信障害でも認証が通らず使えません。2026年の熊本でも各社が「マップに載っていても一時的に利用できない場合がある」と注記していました。充電は「停電が復旧したエリアまで移動して行う」のが基本です
- 道路が寸断されると充電拠点にたどり着けない能登半島地震で顕在化しました。冠水・土砂崩れ・倒木があるときは、無理に充電へ向かわず安全な場所に留まってください
- 給電機能は設備が揃って初めて使えるV2H機器・住宅の仕様・地域のインフラ。車両単体では「走る蓄電池」にはなりません
ガソリンスタンドは停電すると地下タンクから汲み上げるポンプが動かず、給油できません。「EVは停電に弱い、ガソリン車なら安心」というのは誤りです。どちらの車でも、備えの答えは同じ――平常時から残量を切らさないことです。
冠水した車は、自分で動かさない
荒川沿いのこのエリアで、クルマに起きる最も現実的な被害は冠水です。水が引いたあとの扱いを間違えると、車両火災や故障につながります。EV・ハイブリッド・ガソリン車のいずれでも共通です。
- 水に浸かった車のエンジン・電源を入れない水や泥が入ったまま起動すると、車両火災や決定的な故障を招きます。「動くかどうか試す」がいちばんやってはいけない行動です
- EV・ハイブリッドの高電圧部に触れない水没したEVが感電を起こした事例は今のところ報告されていませんが、オレンジ色のケーブルなど高電圧部にはむやみに触れないでください。焦げたにおい・発熱・煙があれば離れて消防へ
- 動かす前に、ディーラー・メーカー・JAF・保険会社に連絡するレッカーでの搬送が原則です。連絡先を車検証と一緒に控えておくと、その場で迷いません
- そもそも低い場所に置かない大雨・台風の予報が出た時点で、立体駐車場など高い場所へ移動しておく。これが唯一の確実な対策です
今日からできる備え
- 燃料・充電は「半分を切ったら入れる」ガソリン車もEVも同じ。残量50%をキープする習慣が、そのまま数日分の空調と電源になります。これが最も費用ゼロで効く備えです
- 自分の車が外部給電に対応しているか確認する最近の車はハイブリッドでも1500Wコンセントを備えていることがあります。対応していれば、車内で扇風機・電気毛布・スマホ充電・医療機器が使えます。付属の給電用ケーブルの置き場所も確認を
- ポータブル電源+USB扇風機を車に積んでおく給電非対応の車でも、これがあればエンジンを止めたまま夏の夜を越せます。CO中毒とガソリン消費の両方を避けられます
- 停める場所を平常時に決めておくブロック塀・電柱・古い建物・斜面のそばを避ける。候補地は車中避難できる場所マップを参照してください
- 水害のときは車中泊を選ばない南区・戸田市・蕨市は荒川氾濫時に広い範囲が浸水想定区域です。車で低地に留まるのは最も危険な選択です。早い段階で市外の高い場所へ(水害・台風のページ)
- 車中泊セットを常備する寝袋・アルミシート・アイマスク・耳栓・着圧ソックス・水・携帯トイレ・サンシェード。詳しくは防災チェックリストへ
出典: 土木学会「東日本大震災におけるライフライン復旧概況」/ 日本地震工学会論文集「東日本大震災におけるガソリン供給問題に関する検討」/ 電気新聞「[令和8年熊本地震]九州電力と九州送配電、高圧配電線の復旧完了」/ レスキューナウ「令和8年(2026年)熊本地震の停電復旧の推移」/ EV CAFE「【令和8年熊本地震】無料開放中のEV充電スポット一覧」/ e-Mobility Power「急速充電スポットの無償開放について」/ 日産「日産の電気自動車が災害復旧に貢献」/ 自治体通信Online「給油制限下でも役場機能を維持」/ 内閣府「車中泊避難者への支援について」
本ページは一般的な防災知識と、さいたま市・戸田市・蕨市および気象庁・内閣府・消防庁等の公開情報をもとに作成したまとめです。最新の避難情報・ハザードマップは必ず各市区の公式サイト・防災行政無線・気象庁の発表をご確認ください。